おせち詰めてみた。おせちの不思議と由来。

2022年1月2日z-日の徒然,,家事習慣,民俗学

先月、娘が「おせち食べてみたい」と言ったので、暮れに買い出ししてきて元日におせち三段に詰めた。

けっこうひと通り食べてくれたけど、伊達巻を別格として、食べっぷりを見るにたぶん一番人気は「本来おせちに入れない」エビ揚げあんかけあたり。そしてフェイクカニかま。まあ予想通りですな、私も焼き豚が加わる以外だいたい同じっすよ。

子供の頃から、おせちは一応なんだか華やかで色々入っているので期待感はあるものの実際つつくと失望の嵐だった。おせちというのはどこで食べても中身は定番なのだと知ってから、よそで食べるおせちにもだんだん期待もしなくなった。

親は料理上手だったけれど、おせちのメニューというのはイチから家で作るものがほとんどなく、だいたい買ってきたものを詰める。漁師の家でもなければ蒲鉾や伊達巻を自宅で作らないだろうし、都会で栗きんとんを栗煮るとこから作ってる人なかなかいないと思う。

自作の代表格としては黒豆で、これはうまく炊けると勝利感があるので腕に覚えのある台所戦士は自家製を理想に掲げる。佃煮も何も難しいことはないが、むしろ普通すぎて面白くないので正月くらい買ってきてしまったりする。あとは生えびかボイルを買ってきて各家庭の味付けするくらい?

とにかく小さな子供の頃に不思議だったのは、普段の料理が美味しい我が家や祖父母の家でさえ、「おせちはどうして大して美味しくないのだろう、そしてどれもこれもどれもこれも甘辛いのだろう」ということだった。

小学校高学年くらいに成長して、おせちは「縁起物の名を借りた保存食」であると知った。まあ正月に限らず、日本人は縁起がいいからといって美味くもないものを食す傾向はある。日本酒に金箔が入っていても喜ぶ文化がある。それは悪いことではない。
食というのを食物を腹に入れる行動としか見ないのが

とにかく生きるために食う

段階で、
より美味しく食べようとして手間さえ惜しまないのが

瞬間的幸福感=快感を追求する

段階で、
日本人などある種の人々は、いにしえであれ近代であれ世界の少数民族であれ一大文化圏であれ、食を「機会」ともとらえ、そこで縁起を担いで

一年や一生の幸福を祈願する

段階がある、
という見方をすることもできるだろう。おせちはその強豪格だということだ。その時は、その場で料理するような素材そのものの味を生かすことが許される場であれば絶品の美味を同時に堪能することもできるだろうが、いかんせん「おせちは作り置きが大前提」という縛りがあるので、美味は二の次になっても仕方がない。

もちろん、料亭や田舎のおばあちゃんが作ったおせちはまた唸るほど美味しかったりするのかもしれないが、そもそも唸るほど美味しいことを望んでいる人が本当にどれだけいるかというと、おそらく昔から魔法のような美味しいおせちを食べてきた人以外、大半が諦めているのではないだろうか。出来合いを買ってる時点でそれは証明されてると思うのだ、通販のおせちもそこそこの値段のを何度か食べたけど、スーパーで材料を揃えて自宅で詰めたのとほぼ変わらなかった。通販のおせちもまた同じことを発送元でやってるなら当然といえば当然、本当に料亭やキッチンで全メニューをイチから作ってるのでなければ差が出るはずもない。し、それでいい。おせちに手間をかけすぎること自体、本末転倒なのだ。

おせちは本来、大晦日の夕方までに家のことは全部終わらせて、元日は家人も休んで初詣やら正月行事だけやって過ごす、料理や洗い物も「縁起を担いで」極力やらない(年神様を迎えるために日常の家事を控えて静かに過ごす)、そのために前日までに保存の効くものを作りおきしておく、そのためのものだったと私は認識している。おせちのメニューはほぼ全て、出来たてである必要のないものばかりである。

しかし年の初めに「作り置きの保存食」というのは華に欠けるので、それぞれの品々に後付けで「縁起のいいこじつけ」をしたのだろう。というのが私の中ではいちいち出典を探す気にもならないくらいファイナルアンサーなのだけど、もし間違っているならぜひ学者さんのご意見で私見を改めたい。

だから年越しそばについても、引っ越しそばと同じ由来だろうと私は思っている。つまりお湯を沸かして麺を茹で、出来合いのツユを割れば食べられて食器もほとんど汚れないという簡単さ手軽さこそが、西日本でさえ「そば」である理由だと思う。うどんだと本格的な地域であればあるほど出汁をとる手間が加わり生ゴミも出る。おせちの用意さえ終わっている大晦日の夜は、引越しで荷物も解いてない時と同じで、お椀と手鍋ひとつでできる日本古来のインスタント食品で効率よく腹をごまかすわけ。「柔らかい麺を噛み切ってどうのこうのとか」縁起なんて絶対後付けだから。そもそも除夜の鐘聴きながら重たいもの食ったら身体に悪いでしょうが。