ローテクと効率とスローライフ

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まず、世界中がローテクで仕方なくスローライフだった頃から考えてみよう。

それはいつかというと、とりあえず想像しやすいところで産業革命以前、日本なら江戸時代としてみる。この時代設定には実は「スローライフでない場合が多々ある」問題があるが、ひとまず妥協する。

スローライフ原理主義なるものがもしあるとしたら、厳密に7千年前とか1万年前の狩猟採集時代に遡る必要があるが、そんな主義は聞いたことがないし私も誰ももうその時代の生活に完全適応は困難だ。ただし、理想的なスローライフの架空到達点としてバニシングポイントを想定する時には、先史時代の考察は絶対不可欠になる。今日は違う話なので置いておくだけ。

さて、ハイテクによる産業革命が起こる以前、人々はほぼほぼローテクであり、何をやるにもそれなりにスローであった。現代から見れば。

ではその時代、あるいはもっと昔、ローテクのせいで現代と比べてすべてにおいて効率が悪かったかというと、そうではない。

例えば現代の1家族が山里で暮らしているとする。
ある晴れた日に裏山で1本か2本だけ木を切り倒して、ついでに山菜を採って帰ってくる場合、チェーンソー を持っていっても、斧を持っていっても、半日潰れることにはほとんど変わりない。
軽トラで行っても馬車で行っても裏山なら時間は変わらない。地形によっては歩くのが一番早いことも多々ある。
直径30センチの丸太は1メートルで軽く30キロ越すので、運ぶのは大変だが、それは軽トラで行ってもチェーンソー持ってっても変わらない。軽トラまでは人力で運ぶことになるし、その場で玉切りしても総重量は減らない。ソリに乗せるにしても丸太のままのほうが固定しやすい。

現代ならウインチ&ワイヤーで車まで強引に引っ張ることもできるが、それが可能な経路が開けているなら動滑車とロープでもだいたい同じことができる。

結局ほぼ同じ、ならハイテクとローテク引き分けかというと、メンテナンスと燃料を差し引くとローテクがコスパで勝利してしまう。

チェーンソーは数回ごとに(あるいは使用した日の最後には)潤滑オイルと燃料の補充と目立てと木屑の除去が必要になる。オイルや燃料は普通は自作できないのでどこかで買ってくる、これもコスト。充電式も同様。
斧は腰からぶら下げられるヤスリを数回かける程度で何日も使い続けられる。ヤスリも1年〜数年持つ。斧の刃もいずれ鈍るが研ぐのはチェーンソーの目立てより早く終わる。家に帰って疲れていれば斧はタオルで軽く拭いて立てかけておくだけでいい。
ノコギリも、斧よりは定期的に目立てが必要だが、薪程度の用途なら大鋸はかなり不精できる。私は年に数回、目立てするのみ。立てかけてあるのを持っていって終わったらまた立てかけるだけ。

斧とノコギリは体力以外燃料がゼロ。
「その体力がさあ」という声が上がりそうなこのタイミングで、スローライフならではの第二のメリットが浮上する。

たしかに、「体力コスト」は、ローテク&スローライフのマイナス面とも考えられてきた。特に19世紀から20世紀にかけて、この体力コストを軽減するために文明は頭脳をフル回転させてきた。なぜ?

「え、楽できるほうがいいじゃん」
それはその通り。だから産業革命以前も、ローテクはローテクで出来る限り楽に効率よく仕事をこなす工夫は何百年も重ねられてきた。

これが産業革命によって一気に、数十倍の規模で体力コストを削減し、同時に生産量を数百倍に増やした。というかこれが産業革命そのもの。
大量生産には体力コスト削減は欠かせないし、体力コストの大規模な削減が実現したことで大量生産が可能になった。

「楽できるほうがいい」のは確かだが、自給自足なら蒸気機関までは必要なかった。

いつの時代でもコスト計算を誤ると生物は赤字生活になる(度合いがひどいと滅びる)。1家族分に必要な衣食住を自給自足するだけなら、工場も重機も必要ないし、血迷って個人用に導入した日には一生かかっても元が取れない。

だから、小規模生産には、コスパ的にもローテクが有効な領域が多々ある。

その上……ここではい、話戻って「第二のメリット」いきますね。

そう、産業革命以前のローテクが抱える最大のデメリットは「体力コスト」なのは疑う余地がないのだが、この「体力コスト」、コストじゃなくて商品=財でもあるわけ。だって、お金出して買ってる人たちいるじゃん。て話。

もうわかるよね、体力コストを毎月何千円も払って買ってる人たち。
うんザップとかうんザスとかで。

それタダになりますから。ローテク。スローライフ。

車や電車でジムまで行って帰ってくるコストであるお金と時間。会費コスト。毎月4千円を年利5%で運用したら十数年で百万円たまるでしょ。
わかるよ、百万円かけても腹筋が欲しい気持ちは。

でも斧で薪割りとか、大鎌(ホームセンターで買える)で草刈りとか、それらを年に何割かの時間やってあとは昼寝してても、腹筋背筋、上腕二頭筋もろもろ一式が手に入るし脂肪も落ちる。もちろん人それぞれ好きな方法で腹筋つければいいけどね。

例えば、お金が下水に流すくらい余ってるとか、ジムで出会いを期待してるとか、それ自体が贅沢な娯楽であるなら全然いい。
田舎でスローライフしながら数百万円の大型バイク乗ってたって全然いいからね。私はバイクやめたけど、北海道の田舎道で、このためのスローライフなのさという雰囲気のライダーを時々見かけて、幸福感が湯気みたいにわいてる感じするもん。

だからさ、筋肉オタク的に趣味でジムのマシンを駆使してミリ単位でボディシェイプを作り上げる道楽も否定しないよ。

だけどあれ何?
ベルトコンベアの上を歩いてるやつ。
で、駅までバス乗ったりして。そこ歩いたら良くない?