若い内に働くのは本当に賢明か
経験はそれ自体、宝だ。
そして経験から得られる知恵は、宝の中でもひときわ輝くアイテムだ。
だから経験として、若いうちに働いてみることには確かに価値がある。
働いて得られるのは経験だけでなく、だけでなく、何?
ここで「お金でしょ?」と答える人。
目の前に億万長者がいたら、口を閉じたまま「い」と言ってるような微妙な顔をしてしばらく黙っていると思う。
そこで、ん、何かおかしいと思い、はたと気づいて
「あ、資金です」
と言い直せれば、たぶん合格じゃないかと思う。
私はまだ億万長者じゃないので(笑)、保証はできないが、億万長者自身の言動や経済理論に関する書物を読み漁った結果、まあ外れてないと思う。
お金と資金とどう違うの、資金だって結局お金でしょ、とまだ言い張りたい人は、まあ今度またこのブログで話しましょう。今はそこが議題ではないのでごめん。
今日の話は、
「若いうちにいろいろもろもろ何もかも犠牲にしてとにかく働くのが正しいか」
ということについて。
例えば、過去の歴史を振り返ると、十代の若者が朝から晩まで働いて家族を養わないと生きていけない状況というのは、確かにあったと思う。
現代でも、国や地域によっては、きっとあるだろう。これはこれで世界の貧困問題として解決しなければならない重要課題だが、ここでは例外とする。
なぜ例外かといえば、ここは今、21世紀の日本だからだ。
現代日本にだって、子供が家族を養うために働いているケースはある、のは知っている。だがそれはやはり「例外」でなければならない。これを日本で当たり前とか、昔は皆そうだったとか無責任に美化するとか、それこそあってはならないと私は思う。だから、現代日本で「若者が働く」ことを論じる時、「(例えば)親兄弟を養うために仕方なく」は例外としなければならないのだ。これは社会構造と制度の問題なので、今回はあえて脇に置き、また詳しい話は今度にする。
で、20世紀後半には、「若いうちに働いてひと財産築け」という大人も少なくなかった。特にアメリカに。
しかし、状況は変わる。変わり始める。変わらない面もあった。
変わっていったのは、物価と賃金。
変わらなかったのは、社会全体の長期的な経済成長の右肩上がり曲線。
経済成長と預金金利にぶら下がって能天気に貯金する人が多かった反面、物価と賃金は、この先もガンガン上がると予想する人は少なかった、のだろうきっと。そうでなければ、「働けるうちにしゃかりきに働け」というのは完全に馬鹿げたことになる。
Q1:例えば、今日、午前中で7千円もらえる仕事があったとする。
しかし明日だと同じように午前中だけ同じ仕事をして、1万円もらえるとする。
いつでも募集しているがどちらか1日しか働けないとしたら、今日と明日、どっちに仕事をしたほうが得だろうか?
Q2:今日買えば7千円の自転車が、明日だと1万円に値上がりするとする。
自転車が絶対欲しいなら今日と明日、どっちに買うべきだろうか。
Q3:今日、とある銀行に口座を作って預けると、特別キャンペーンで今日1日だけスペシャル金利がつき預入れた金額が倍になる(ただし預入金額の上限は1万円)とする。
この場合、Q1の条件下の人は、その時ほとんど無一文だったとして、どうするのが得だろうか。Q2の条件下の人は、自由になるお金が1万円きっかりだった場合、どうするのが得だろうか。(Q1・Q2共に、借金はできないとする)
私が高校生の頃、福岡市内でコンビニの時給が、475円だった(未成年者)。
あははは。今の半分だわ。(実は世界的に見ると「半分でしかない」。30年以上経って賃金が倍にしかなってない国は先進国でも他に聞いたことがない。よそは4〜6倍とかそれ以上だ)
私が高校卒業して家出して東京に出た時、東京横浜のコンビニの時給は昼間は650円前後くらいだった(夜勤が700円だった)。
そして今、30年以上経ったけれども、北海道の高校生でもどこかで店員をやれば910円とかもらえる。
私は19歳の時、「一生分の財を貯めるまで働くぞ」と頑張るべきだっただろうか。
例えば世界中で多くの人が老後を心配しているが、30年分の米か麦を倉庫に蓄える人がいないのは何故か。
19の時、家出をせず、福岡のコンビニで10年働き続けてお金を貯めたとして。働きづめで知識は大してつかず、そこに「投資」の知識もなく、遊びたい盛りで、果たしてそれは堅実な選択と言えたろうか。賢明だったろうか。
19の時にコンビニで10年働いて稼いだ金額は、30年後なら半分の5年で稼げるわけで、10年後でも10年はかからない。
もちろん、投資(投機でなく、つまりギャンブルでなく)によって増やせる場合は話が違ってくるし、1年頑張ったお金で知識や経験や資格を買うこともできる。
結局、賢明かどうかはそうした選択肢で明暗がまるっきり違ってくる。
ただ働きまくって複利の預金に入れておけば将来安泰、みたいなことをいうアメリカのオジサンの本も実際あったけれども、そもそも複利自体、日本の19歳でどれだけの人が知っていただろう。
そしてオジサンらの黄金時代も終わり、大手銀行の預金金利はタンスと変らない(緊急時には手数料のないタンスのほうが有利という)時代になった。
しかも、市場全体では確実に右肩上がりだった経済にも本当の変化が出てきた。
「しゃかりきに働け」と若い人にいう前に、教えるべきことは山ほどある、あったはずだ。それは昔でも。
働けば幾らかのお金が入る、
学校の勉強をすればどこかで役には立つ、
ただそんなことは小学生でも知っていることで、いちいち大人が言うことじゃない。
例えば、しゃかりきに働いただけでは得られないものや、そのせいで失うものをこそ教えるべきだろう。それは大人にならないとわからないこともある。
働いたせいで失うものを直感しているからこそ、ニート状態で悶々とする、若者も(中年も)たくさんいる。彼ら彼女らに必要なのは多分、シンプルでも複雑でもいいからハッキリと方角を示す羅針盤なのかもしれないが、それはすぐには手に入らないことが多い、なぜならこの現代社会が混乱しまくっているから。
しかしシンプルな法則はちゃんとある。先人の知恵か、自身の経験で学べる。そこを少し多く知ってる可能性があるのが大人で、それを教えるのが教育だと思う。
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