今さらなの?みんな知ってた?

2022年8月11日フランス語

本当はね、今日のこの記事を書こうとしていて、ちょっとした前置きで挿入しようとしたのが昨日の「ネオン〜アルゴンガス発見」の話だった。


それが気がついたら記事として完結してしまっていたのと、レイリー卿の世界的発見に比べたら「もともとの私の話」があまりにも小さい気がして独り赤面してしまったのだった。

もはや「こっちの話が本題でしたよ」などという意気も失せてしまったので、これはただの日記として読み流してもらうつもりで書くほかない。


さて。最近になって、私はフランス語を数十年ぶりに真面目に学習し直していて、真面目に学んでいると些細なこともつい「気になる」。

フランス語の、超がつくレベルでめちゃめちゃ使われる動詞に、
「connaître」
がある。
動詞活用は覚えてしまえばどうということはないし、フランス語のニュースやフランス文学を頑張って原文で読んでいれば自然に何十回、何百回と目にするので、覚えようとする必要さえない。

しかしその活用の表記を見ていて、ふと気になることがあった。

気になったのは、通称「小さい帽子」と言われる記号「 ˆ 」が、ついたりつかなかったりすることだ。
フランス語がとんとわからない人のために(こそ)話を端折ると、三人称単数(彼は/彼女は)の時だけ、「 i 」がこの帽子をかぶって「 î 」となるが、他の人称の時にはすべて帽子をかぶらずただの「 i 」なのだ。

なんで?

と思ってこの記号、「アクサンシルコンフレックス」についてまず日本語サイトで調べてみた。
と、この記号はそもそも、
古いフランス語ではそこに「 s 」が書かれていた
という意味なのだそうだ。
(他にもこの記号の使い道はあるが、ここで関係するのはまさにこの1点)

「connaître」は、昔、「connaistre」だったんですよ。というわけ。

で、多分、もう発音しなくなったのに単語の途中に出てくる「 s 」は何かとお邪魔なので消えてもらうことにしたが、発音しなくなったとはいえ、完全に消したら寂しいので、、、みたいな話かと思ったらまた違ったのだ。


日本語サイトを見ただけの段階で「なるほど」と思ったのは。

問題の帽子付きの活用形は「connaît」で、帽子がつかない活用形はそれぞれ「connais」「connaissons」「connaissez」「connaissent」となっているので、

三人称単数の時だけ母音「ai」の後に「 s 」がないが、他の活用では(原型から消えていた)「s 」が復活している(ていうかまあ、消えてない、ということかな)。だから帽子はいらない。「 s 」があったんですよとわざわざ示す必要がない。ちゃんと「 s 」あるもん。

さて、しかしそれでもまだ納得いかなかった。

発音しなくなった文字をお邪魔だから消したというのなら、
「いや昔はあったんだけどね」
というためだけに面倒臭い記号を残す必要があるのか?
フランス人てそこまで暇なの?

ていうか、本当にそれ、発音にまったく関係ない?

で疑念を晴らすため、もう少し調べた。

英語話者の人たちがフランス語の疑問をフランス人に相談するサイトで出会った鮮やかな回答のおかげで解決した。

実はその「 s 」は直前の母音の発音にかすかに影響を及ぼしていたのだ。

昔というか、少し前まで、例えば「 a 」と書かれる母音の発音は、「 s 」の直前に書かれる時とそうでない時とで、口の中の舌の位置がわずかに違ったらしい。それも今ではほとんど区別する人はいなくなったという。

しかし少し前までは、綴りからサクッと「 s 」を消してしまうと発音も変わってしまうのでそれはまずかろう、ということだったのだろう。

子音としては発音しない「 s 」だからね、もう書かないことにしよう。
でも、完全に消しちゃうとその前の母音の発音が変わっちゃうからぁ〜そうだ、母音に帽子被せとこうよ……

ああ、あの帽子(実際にフランス語で通称「petit chapeau」と言われているらしい)って、消された「 s 」翁の忘れ形見の帽子だったんだ。今は亡き「 s 」を想うことで少しだけ発音が変わっていた(かつての)フランス人。

なんとも悩ましい言葉の歴史をお持ちであることよ、フランス語。それだけ発音を愛し大切にしてきたんだね。

だんだん現代人は気にしなくなってきてるという話もあるけど。

日本語の「を」とか、格助詞の「は」とかも、名残っちゃ名残だから、これ面倒だから発音と統一しようって無くなったら、悲しいよ確かに。
気持ちわわかるわ。じゃなくて
気持ちはわかるわ。

フランス語

Posted by oceanos(父)