気になったことは調べるが吉
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もしも、現代社会から「ネオン」の光が消え失せたら?
これは比喩とかアイロニーじゃなくて、つまり「風俗がなくなったら」とか言ってるわけじゃなく、純粋にあの何とも幻想的なネオンのイルミネーションのことを言ってる。
すでにネオンの光の純粋な心地よさを知ってしまっている人は、なんとなく、無くなると寂しい気がするんじゃないかな。別にいいやという声も確かにあるだろうけど。実際、ど田舎暮らしの私なんかは、もう何年も現物のネオンなど見てない。で、確かに困らない。困らないが、あれを発明してくれた人にありがとうという気持ちは消えないだろう。
ネオン管が光るのは、管の中に充填されているネオンガスのおかげだ。が、このネオンガスは、普通に人類が実用的な科学を追い求めていただけではおそらく決して発見されなかった代物なのだ。
安定しているがゆえに目立たない
高校で化学が赤点ギリだった私でさえ、ネオンがアルゴンとかの一味で、元素記号表の一番右端の縦列にあることくらいは知ってた。なぜ右端にあるかといえば原子の最外周に惑星のように位置している電子の数が「満席」状態で、「だから安定している」のだと教えられたことまではなんとか覚えていた。
さらに私は二十歳ソコソコの頃に電気関係のバイトをやった。そこでネオン管を実際に配線した。瞬間的に1万五千ボルトの電圧に感電したこともあった(電流が制御されていたから死ななかったが、重力が私だけ一瞬倍加した)。
で、ネオン管が割れると蛍光灯のような破裂音がするので、気圧が違うんだろうな、でも電極は両端にしかないから、中に入ってるガスが光ってんだろうな、あ、そうかだからネオン管なのか。
そして、「安定している」の意味がやっと少しわかる。「安定してない」気体だと、電気反応で化学変化を起こすだろうし、そこで「違う何か」に変わってしまうから、やがて中のガスは全部「違う何か」になってしまう。だから「安定している」ガスなわけ?ほんと?
「だからネオンなんですよね?」と社員の人に聞いたら、
「あー、まー、これとかアルゴンだけどな。本当はネオン管じゃねーよな。」
と、普段ふざけてばかりいた人がサクッと答えてくれた(一応これも皮肉だった?)。
「究極に目立たない気体」がなぜ見つかったか?
さて、この「安定した気体」の一味は、自然界にも存在するが、長らく人類に発見されなかった。
だって、化学反応と無縁だったから。
わかりやすい反応の最中にも「奴ら」はちゃんとそこにいるのだけど、他の誰とも反応せずにじっとただいるだけなので、なかなか気づいてもらえなかったみたい。
この「まったく目立たない子」を発見したのは、レイリー男爵と呼ばれる物理学者だった。
誰とも電子を交換せず話しもしないこの子を、どうやって発見したかというと、
「窒素を取り出して重さを測ったら、なんかちょびっとだけ計算と違うのよね」
と「気になった」せいだった。
そしてレイリー卿は、「ま、誤差かな」で済まさなかった。
アンモニアから化学反応で取り出した窒素(だけであるはずの気体)を、純粋な窒素とわかっている気体の重さと比べてみた結果、気体の量が増えるほど「差」も増えていくことがわかった。これはもはや「誤差」ではない。
そうして化学分野の学者さんと意見交換しつつ、窒素しかないはずの気体に酸素だけを加えてから、窒素と酸素を固定して完全に取り除く実験をした結果、何か知らん気体が残った。
これが、「目立たない子」だった。
最初に見つかった子が1894年に「アルゴン」と名付けられ、その後続々と「目立たない仲間」が見つかった。
(彼らは1904年にノーベル賞(それぞれ物理学賞と化学賞)を取った)
この一連の発見が元素周期表の右端の列を一気に埋めたと言えば、文系の私らでも「すげー」と思うよね。
その「すげー」発見がなされたのは、
「なんか知らんけど1000分の1だけ計算より重いんですけど。なぜに?」
と「気になった」せいで、それを納得するまで無視しなかったせいだった。
…
「目立たない子」自身が、見つかって喜んだかどうかは知らない。
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